薬剤師の仕事と聞くと、調剤や服薬指導といった患者対応を思い浮かべる方が多いかもしれません。そのため、英語を使うイメージはあまりないという方も少なくありません。しかし、近年の医療や製薬業界では、英語の重要性が高まっており、英語力を持つ薬剤師はさまざまな場面で求められるようになっています。
海外からの医薬品輸入や国際共同治験に関する業務、外国人患者への服薬指導、さらには最新の医薬論文の読解まで、薬剤師が英語に触れる機会は年々増えています。ここでは、薬剤師に英語力が求められる理由や、英語力を活かせる職場について、詳しく解説します。
薬剤師に英語力は必要?その理由とは
薬剤師として国内で働く場合、必ずしも英語が必須というわけではありません。地域の薬局や病院薬剤師としての業務は基本的に日本語で行われます。しかし、薬剤師として専門性を高めたり、キャリアを広げたりする上で、英語力は大きな強みになります。
その理由の一つに、医薬品に関する最新情報の多くが英語で発信されている点が挙げられます。新薬の治験データや論文、国際学会での発表内容は、ほとんどが英語です。英語を読めることで、新しい情報を素早くキャッチし、患者対応や医薬品の適正使用にも役立てることができます。
さらに、近年増えている訪日外国人への対応も英語力の必要性を高めています。観光客や在日外国人が日本の薬局や病院を訪れる機会が増える中、英語で症状を確認したり、薬の説明を行ったりするスキルは薬剤師にとって重要なものとなりつつあります。英語力を持つ薬剤師は、国際化する医療現場で活躍の幅を広げることができます。
英語ができる薬剤師が求められる場面
英語力があることで、薬剤師が活躍できる場面は多岐にわたります。英語を必要とする具体的なシーンについて紹介します。
医薬品の輸入や国際共同治験に携わる場面
海外で開発された新薬を国内に導入する際、英文の資料や報告書に目を通す機会が多くなります。薬の効能や副作用、用法用量などの詳細が英語で記載されているため、正確に読み取り、適切に翻訳・解釈できるスキルが求められます。
また、国際共同治験に関わる業務では、海外の研究機関や製薬企業と英語でやり取りすることも珍しくありません。会議や報告書の作成、メールのやり取りなど、英語が日常的に必要になる場面もあります。特にグローバルな製薬企業では、社内資料や会議も英語で行われるケースが多いため、英語ができる薬剤師の需要は高まっています。
海外文献を読解する場合
新薬や治療法に関する最新の知見を得るには、海外論文やガイドラインを参照する必要があります。特に先端医療分野では、日本語よりも英語で発信される情報が圧倒的に多く、英語が読める薬剤師は情報収集力において大きなアドバンテージを持てます。
エビデンスに基づく医療(EBM)を実践するためには、論文から得た情報を医師や患者にわかりやすく伝える力も求められます。英語論文を正しく理解し、内容を的確に伝えるスキルは、今後の薬剤師にとって重要な役割となるでしょう。
外国人患者への服薬指導などの対応
訪日外国人や在日外国人が日本の医療機関を利用するケースが増えています。英語で症状や服薬履歴を確認し、適切な薬を提案する力が求められます。
特に観光地や都市部のドラッグストアでは、英語対応ができる薬剤師の需要が年々高まっています。薬の効果や副作用、使用方法などを正確に説明できる薬剤師は、患者からも信頼され、店舗にとっても大きな強みになります。
英語力がある薬剤師におすすめの職場
薬剤師としての専門知識に加え、英語力を身につけることで、活躍できるフィールドは大きく広がります。英語が求められる場面は、医薬品の研究・開発から、国際的な医療現場での患者対応まで多岐にわたり、キャリアの選択肢も広がります。ここでは、英語力を活かせる具体的な職場について紹介します。
製薬企業の研究開発職
製薬企業の研究開発職は、特に英語力を活かしやすい職場のひとつです。新薬の開発では、国内外の研究機関や企業と連携することが多く、国際的な共同研究に参加する機会もあります。
このような場では、英語での論文作成やプレゼンテーション、海外チームとのオンラインミーティングなどが日常的に行われます。新薬の承認申請に向けたデータ作成でも、海外データを参照するケースが多いため、英語での文献読解力は必須です。
特にグローバル展開している製薬企業では、英語が社内公用語となっていることも珍しくありません。そうした環境では、英語力が高いほど業務効率も高まり、キャリアアップのチャンスも広がります。
医薬品の安全性情報管理(PV)・海外承認申請業務(RA)
医薬品の販売後に発生する副作用や安全性情報を収集・管理する安全性情報管理(PV)業務も、英語力を活かせる職場です。海外での副作用報告や医薬品安全性情報(PSUR)をもとに、日本国内の情報と照らし合わせる際には、英語の文献やレポートを読む機会が多くなります。
また、新薬を海外で承認取得するための申請業務(RA)では、各国の規制に対応するため、現地の医薬品規制当局とのやり取りや英文の申請資料作成が求められます。こうしたグローバルな業務に携わるには、高度な薬学知識に加え、英語による正確な情報伝達能力が欠かせません。
特に外資系製薬企業やグローバル企業では、英語力が業務の要となるため、英語が得意な薬剤師にとって非常にやりがいのある職場です。
外資系企業やCRO(医薬品開発業務受託機関)
外資系製薬企業では、社内文書やメール、会議などすべてが英語で行われるケースも多く、英語をスムーズに使いこなせる薬剤師が重宝されます。特に外資系企業は成果主義の傾向が強く、英語力を活かした交渉力やプレゼンテーション能力があれば、重要なプロジェクトを任される可能性も高くなります。
また、CRO(医薬品開発業務受託機関)も英語力を活かせる職場の一つです。CROは製薬企業から委託を受け、治験やデータ解析、薬事申請などをサポートする企業です。国際共同治験に携わることも多く、海外の治験データや報告書を英語でチェックしたり、外国の担当者と連絡を取ったりする機会が頻繁にあります。
英語力を活かして製薬業界全体を支える役割を担える点で、英語を強みとする薬剤師には最適な環境です。
国際空港の薬局や観光地のドラッグストア
日本を訪れる外国人観光客が増える中、国際空港内の薬局や観光地にあるドラッグストアでも、英語力がある薬剤師の需要が高まっています。
外国人観光客の中には、日本語がほとんど話せない方も多く、薬の説明や服薬指導を英語で行う力が求められます。症状やアレルギー歴を確認し、適切な薬を提案するためには、英会話スキルだけでなく、薬剤師としての専門知識も必要です。
国際空港や観光地で働く薬剤師は、日本の医療サービスの「顔」として外国人患者に安心感を与える存在です。日本ならではの医薬品や健康商品を適切に紹介し、安全に利用してもらうための重要な役割を担っています。
医療通訳が常駐していない店舗も多いため、英語対応ができる薬剤師は店舗運営にとっても欠かせない存在となっています。
海外の医療機関や薬局
英語力を生かして、海外の医療機関や薬局で活躍する道もあります。
海外で薬剤師として働くには、国によっては現地の薬剤師資格を取得する必要がありますが、日本の薬剤師資格や実務経験が評価される国も少なくありません。英語が堪能であれば、現地の薬局や病院での就職活動がスムーズに進みます。
また、海外ボランティアや国際NGOの医療支援活動でも、英語力を活かす場面が多くあります。発展途上国での医療支援では、現地の医療従事者や患者と英語でコミュニケーションを取りながら、適切な医薬品提供や衛生指導を行う役割を担います。
日本国内にとどまらず、グローバルに活躍したい薬剤師にとって、英語力は欠かせないスキルと言えるでしょう。
このように、薬剤師のキャリアは英語力によって大きく広がります。英語ができることで選べる職場が増え、海外にも活躍の場を求めることが可能になります。薬剤師としての専門性を深めるだけでなく、英語力を磨くことで、グローバルな視点を持つヘルスケアのプロフェッショナルとして活躍する未来が広がっていきます。
薬剤師の仕事には英語とドイツ語どちらが役立つ?
かつて薬学分野ではドイツ語が重要とされていましたが、現在は圧倒的に英語が主流です。最新の論文やガイドラインは英語で発信されることがほとんどで、国際共同治験や学会発表でも英語が標準です。ドイツ語が必要となる場面はごく一部に限られているため、現代の薬剤師にとっては英語を優先して学ぶことが、キャリアの選択肢を広げる上で重要です。
まとめ
薬剤師にとって英語力は必須ではありませんが、持っていることでキャリアの幅が大きく広がります。新薬の治験データや海外文献の読解、外国人患者への対応、製薬企業や外資系企業での国際業務など、英語を活かせる場面は増加しています。特に製薬企業の研究開発や安全性管理、国際共同治験では英語力が重要なスキルとなっており、英語を習得することで国内外での活躍が可能になります。英語力は薬剤師の専門性をさらに高める強力な武器となるのです。